» 「MMPI 臨床解釈の実際」の紹介

MMPI臨床解釈の実際

MMPI臨床解釈の実際

本書の原典は、ケント州立大学の心理学部名誉教授であるJohn R.Grahamによる”The MMPI:A Practical Guide”(1977)である。訳者は心理査定の研究で知られ、MMPI新日本版研究会の生みの親でもある田中富士夫教授であり、1985年に第1刷が刊行された。

本書は具体的な解釈の手順が述べてあることと、解釈の基本となる基礎尺度(妥当性尺度、臨床尺度)や高点コードの解釈上の意味が詳しく述べられていることが特徴で、実際の臨床査定業務に非常に役立つ。MMPIマニュアル作成にあたって参考にされた1冊でもあり、より充実した情報が示されているので、マニュアルを補完する参考書といってよいだろう。

また本書はMMPI初学者用の教科書としても優れている。解釈手順が具体的に示されていること、それを実際の事例を用いて説明していることで、どんなことを知るためにどの情報をどう見ていくか、それをどういう言葉でまとめるかなどが具体例をもとに学べる。また、実習用プロフィールがいくつか付録に掲載されており、それに訳者のコメントが付けられているので、解釈の自習の大きな助けになる。

本書は9章から構成されており、詳しい目次は三京房のHPで確認いただけるが、第1章はMMPI概要、第2章が実施と採点法、第3章~第8章が解釈関係、第9章はアメリカのコンピュータ解釈サービスの紹介である。解釈関係の6章のうち、第3章は妥当性尺度、第4章は臨床尺度について、その構成法や、心理学的意味、高得点者、低得点者の特徴が叙述されている。高得点者の特徴だけでなく低得点者の特徴も述べられているのは本書の特徴である。第5章では出現頻度の高い2点コード型について解説し、解釈が示されている。第6章と第7章は追加尺度・特殊尺度を扱っている。MMPIには妥当性尺度と臨床尺度からなる基礎尺度以外に多くの尺度が作られている。そのうち良く知られているいくつかについて尺度の構成法、信頼性、妥当性及び高得点、低得点の場合の解釈が述べられている。第8章は著者が用いている解釈の一般的方略を示している。前述したように、MMPIを実施し採点した後どのような手順で解釈を進めるかを事例も用いて示してあり、解釈の方法を学ぶためには最も重要な興味ある章であろう。

なお第9章では第8章で紹介された事例のコンピュータ解釈サービスの報告書をいくつか比較し、報告書は基本点はよく一致しており、筆者の解釈とも近いが、より固有な特徴を意味づけていくためには、訓練を受け経験を積んだ臨床家が必要であると結論づけている。第1章はMMPIの作成経緯や尺度を構成する際に用いた方法など使用者が知っておくべき概要である。

1999年にフリードマン等による「MMPIによる心理査定」が出版されるまでは、本書がほぼ唯一の日本語で読める初学者のための概説書であり、同時に経験者にとっても役立つ実用書であったといってもよい。

運営委員 木村 敦子(金沢学院大学基礎教育機構 准教授)


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